このポスターは当院で掲載されているものです。様々な全身疾患と歯周病が関係あるということで、わかりやすいイラストで描かれています。(患者さんから、このイラストへの質問が多いです)
歯周病はお口の中だけの問題ではなくなってきている
お口の中、つまり、歯を失うことだけでは済まなくなっている。
歯周病は全身状態と深く関わりを持っていることが近年の研究で明らかになってきました。
このブログを読む事で、得られること
- 歯周病と全身疾患との関係がわかる
- 歯磨きをもっと頑張ろう!というモチベーションにつながる
- 健康に関しての知識がまた一つ増え、今後の100年時代に備えることができる
どうやって歯周病が他の病気を悪化させるの??
ステップ1 〜歯周病に罹患する〜
まず歯周病の原因となるのは、歯垢(しこう)と呼ばれる細菌です。
嫌気性菌が歯肉に攻撃を仕掛けて身体の中に侵入しようとし、身体は防御反応を起こし、菌をやっつけて侵入を抑えようと攻撃します。
これが、歯周病のはじまりです。
ステップ2 〜炎症反応が続く〜
歯肉からの出血・発赤・腫脹などの炎症の症状です。この中でも、出血は歯周病菌と白血球の戦いの証です。
ただし、この出血をそのままにしておくと、歯垢は歯周ポケットの中に潜り込み、どんどんと歯周組織を破壊していき炎症を繰り返します。
歯周病が起こるということは、口の中で常に炎症が続いているということです。
ステップ3 〜全身に広がる〜
歯周病菌が増殖し、口腔内での炎症が常にある状態。
その炎症によって出てくる毒性物質が歯肉の血管から全身に入り、様々な病気を引き起こしたり悪化させる原因となります。
炎症性物質は、血糖値を下げるインスリンの働きを悪くさせたり(糖尿病)、早産・低体重児出産・肥満・血管の動脈硬化(心筋梗塞・脳梗塞)にも関係しています。
各全身疾患と歯周病との関係
アルツハイマーと歯周病
認知症には種類がありますが、最も多いのが「アルツハイマー型認知症」です。
アルツハイマー型認知症は、脳に「アミロイドβ」というたんぱく質が蓄積されることによって発症するとされています。
通常、アミロイドβは分解されて排出されます。しかし何らかの理由で排出されずに蓄積してしまうと、脳の情報伝達が悪くなり、脳の機能が低下してしまうのです。
進行すると、タウという異常なたんぱく質が溜まって、神経細胞を死滅させてしまいます。
認知症を防ぐためには、アミロイドβの蓄積を防ぐ必要があります。
歯周病菌がこのアミロイドβの生成・蓄積を促進させることがわかりました。
慢性関節リウマチと歯周病
通常これは自分の体にないものです。このACPAを攻撃してボロボロになる状態がリウマチだということが分かってきています。
なぜこのような抗体ができたのかを調べてみると、いろいろな菌がタンパク分解酵素を出したことが原因だということが分かってきました。
その原因となる菌の中に、歯周病の原因であるPg菌(※1)
がいるのです。実際慢性関節リウマチの患者さんの滑液の中にPg菌がいたことも明らかになっています。
(※1)Pg菌(ポルフィロモナス・ジンジバーリス):いわゆる歯周病菌。嫌気性の桿菌。強い付着力。
骨粗しょう症と歯周病
大腿骨などの太い骨を骨折して寝たきりになるきっかけになりやすいことが問題とされています。
整形外科では骨折のリスクを下げることが多くの人にとって利益があると考え、ビスフォストネート製剤(BP製剤)という薬が使われています。
この薬を使っている人が、歯周病などが原因で抜歯をはじめとする外科処置を受けると、骨が腐る副作用が起きる可能性があると考えられています。そして現在では、慢性炎症がある方が歯周病であったり、根の先の病気がある場合も同じ副作用が起きると言われています。
現在の歯科では、骨粗しょう症を患った患者さんに対しては、歯周病を防ぎ、細菌感染による慢性的な炎症を減らすことが一番の解決策だと考えられています。
つまり、口腔内をきれいにすることが顎骨壊死を防ぐ最も有効な予防法ということです。
骨粗しょう症による顎骨壊死の仕組み
私たちの体の中には骨を溶かす細胞と作る細胞があり、正常な体の人の体内では、常に溶かして作ってという工程が行われています。
そのため、歯周病になり歯周病の細菌が体の中に入ってくると、細菌から守るために骨を遠ざけようと、骨を溶かす細胞が働きます。
ところがビスフォストネート製剤(BP製剤)を使っていると骨を溶かす働きがストップするため、骨が細菌に感染するリスクが高くなります。
そのため、骨粗しょう症でビスフォストネート製剤(BP製剤)を使用している患者さんに抜歯を行うと、あごの骨が腐る顎骨壊死という副作用が起こるリスクがあります。
誤嚥性肺炎と歯周病
歯周病は歯茎や歯の周囲の組織に炎症を引き起こす疾患で、口腔内の細菌が増殖しやすくなります。
これらの細菌が誤って呼吸器に入ると、誤嚥性肺炎のリスクが高まる可能性があります。
歯周病によって引き起こされる炎症が口腔内の微生物のバランスを崩し、細菌が増殖しやすくなります。
これにより、口腔内の病原菌や炎症が肺に到達するリスクが増加します。
歯周病と糖尿病
さらに最近、歯周病になると糖尿病の症状が悪化するという逆の関係も明らかになってきました。
つまり、歯周病と糖尿病は、相互に悪影響を及ぼしあっていると考えられるようになってきたのです。
歯周病治療で糖尿病も改善することも分かってきています。
歯周病菌は内毒素をまき散らす
「細菌」は死滅しても「毒(内毒素)」は残る
これが歯周病と全身疾患の関係を表す、キーポイントです。
歯周病菌は腫れた歯肉から容易に血管内に侵入し全身に回ります。血管に入った細菌は体の力で死滅しますが、歯周病菌の死骸の持つ内毒素は残り血糖値に悪影響を及ぼします。血液中の内毒素は、脂肪組織や肝臓からのTNF-αの産生を強力に推し進めます。
TNF-αは、血液中の糖分の取り込みを抑える働きもあるため、血糖値を下げるホルモン(インスリン)の働きを邪魔してしまうのです。
歯周病を合併した糖尿病の患者さんに、抗菌薬を用いた歯周病治療を行ったところ、血液中のTNF-α濃度が低下するだけではなく、血糖値のコントロール状態を示すHbA1c値も改善するという結果が得られています。
歯周病と低体重児早産
これは口の中の歯周病細菌が血中に入り、胎盤を通して胎児に直接感染するのではないかといわれています。その危険率は実に7倍にものぼるといわれ、タバコやアルコール、高齢出産などよりもはるかに高い数字なのです。
歯周病は治療可能なだけでなく、予防も十分可能な疾患です。
生まれてくる元気な赤ちゃんのために、確実な歯周病予防を行いましょう。
歯周病と狭心症・心筋梗塞
動脈硬化は、不適切な食生活や運動不足、ストレスなどの生活習慣が要因とされていましたが、別の因子として歯周病原因菌などの細菌感染がクローズアップされてきました。
歯周病原因菌などの刺激により動脈硬化を誘導する物質が出て血管内にプラーク(粥状の脂肪性沈着物)が出来、血液の通り道は細くなります。
プラークが剥がれて血の塊が出来ると、その場で血管が詰まったり血管の細いところで詰まります。
歯周病と脳梗塞
歯周病の人はそうでない人の2.8倍脳梗塞になり易いと言われています。
血圧、コレステロール、中性脂肪が高めの方は、動脈疾患予防のためにも歯周病の予防や治療は、より重要となります。
まとめ
口とは離れた身体の組織でも、歯周病菌の出す内毒素がしっかりと届いてしまう。
細菌が死滅しても内毒素は残る。この話を聞いて驚きました。
歯周病を放置しても良いことはないと改めて再確認できました。
私自身も、今回の学びを患者さんへの指導に役立てていきたいと思います。
みなさんも一緒に健康への道、頑張って切り拓いていきましょう。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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